書籍紹介:今年イチおすすめ本『2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か』 (日本経済新聞出版)

 

2021年もあと少し。そんな年の瀬に、まさか今年イチ、エキサイティングな本に出会えるとは!

超おすすめな1冊『2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か』をご紹介します。

それではよろしくお願いします。

 

『2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か』太田泰彦(日本経済新聞出版)

                       

◆何について書いた本か。

世の中にあるあらゆる製品には半導体が使われている。

兵器に代わる新たな軍事兵器になりうる製品(例えば、AIチップを搭載したロボットや、無人ドローン)にも使われ、置き置き換わるほどのにも使われており、半導体の性能の差が勝敗を握る時代になった。

例えば、2020年9月に黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス地方で起きたアゼルバイジャンとアルメニアの紛争は、両陣営ともドローンを使った半導体戦争であった。

勝敗は性能の差。

アゼルバイジャンを支援している「トルコ軍のドローン」のピンポイント爆破により、アルメニアを支援している「性能の劣るロシア製ドローン」は飛ぶことすらできなかった。

 

「半導体を制する者が世界を制する。」

 

日本政府が今、台湾のTSMC(ファウンドリー:半導体を受託生産する世界最大手)を必死に支援して国内工場を建設させようとしているのも、米国バイデン大統領が、アリゾナにTSMC工場を作らせているのも、中国がここ数年特に台湾を自国領土化にしたがっているのも、すべて、TSMCの半導体工場が地政学的に脅威になるため。

 

本書では、世界各国の政府や企業の動向を、地政学の視点で読み解いている。

半導体業界で働いている人だけでなく、投資家にとってもおすすめしたい本となっている。

 

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(1)5Gをめぐる米中間の対立激化

2020年5月15日。前トランプ政権は、米国製の機器やソフトを使って製造した半導体をファーウェイに輸出することを禁じ、しかも、この措置を外国企業にも適用した。

中国を狙い撃ちにしたこの措置により、ハイシリコン(ファーウェイ子会社の半導体メーカー)の5Gチップを生産することができなくなった。

なぜなら、ファーウェイの5G半導体チップは、台湾TSMCでしか生産することができないからである。

中国国内にも、半導体のファウンドリー企業は存在するが、当時、製造できる回路線幅は10ナノにとどまり、2ナノの製造工場を建設しているTSMCとは天と地の開きがあるのである。

そのため、中国は・・・TSMCを喉から手が出るほど欲しいのである。

本書には、中国国内の自国生産に向けた動向や、ファーウェイ日本法人会長のインタビューも紹介されているので、ぜひご覧ください。

 

(2)米国バイデン政権がTSMC・サムソン電子の半導体工場を米国内につくらせる訳

半導体の主要技術は、下記7項目。

  1. 半導体チップ(最終製品)
  2. 設計ソフト
  3. 要素回路ライセンス
  4. 半導体製造装置
  5. ファウンドリー
  6. 製造後工程
  7. ウエハー

 

かつて「半導体王国」と言われた日本で首位なのは、「ウエハー」のみ。

「半導体チップ(最終製品)」「設計ソフト」「要素回路ライセンス」「半導体製造装置」については、米国が首位を独占している。

例えば、下記の製造装置は、それぞれ米国の企業が独占。

・ウエハーに薄膜を形成する装置や、研磨する装置:アプライド マテリアルズ(AMAT)

・検査装置:KLAテンコール(KLAC)

・エッチング装置:ラム・リサーチ(LRCX)

 

では、なぜ、バイデン大統領は、わざわざ、台湾や韓国の半導体メーカーを国内に招くのか?

 

それは、実際にチップを製造する「ファウンドリー」と、「製造後工程」については2割以下のシェアしかなく、台湾に依存しているからである。

要するに、台湾を中国に占拠され、TSMCの工場が抑えられたら、半導体チップを製造することができないからである。

 

(3)米国も恐る欧州の最終兵器「ASML」

半導体というと、エヌビディア、AMD、TSMC、サムスン電子・・・といった企業がまず頭に浮かぶ人もいるかもしれないし、欧州・ヨーロッパなんて、英国 アーム社ぐらいか。

ちなみに、アーム社は、ソフトバンクグループ傘下。エヌビディアに買収する話もあったが、米国企業への買収に伴う地政学リスクを懸念した欧州・英国が待ったをかけ、現在も買収されないままの状態。)

 

実は、欧州には、米国も恐る企業が存在する。

オランダの企業:ASMLホールディングス(米国NASDAQ市場にも上場)

 

なぜ米国も恐る企業なのか?

高度な露光装置をつくれるメーカーが、世界でASMLのみだからである。

しかも露光装置のシェアは90%程度。(昔は、日本のNikonがシェア1位だったが・・・)

 

露光装置は、シリコンウエハ上に電子回路を焼きつける装置。

人間の目に見えない紫外線の中でも、さらに波長が短い光を「極端紫外線(EUV)」という。

集積度が高い半導体チップの製造には、このEUVによる露光技術が必要になるが、5ナノ、3ナノと微細な回路線幅になると、ASMLの装置でなければ製造は難しいのである。

 

現状、5ナノ、3ナノレベルは、まだ需要はほぼありませんが、TSMCが3ナノ生産できる工場を建設していることから、今後の主役に躍り出る企業になると思われる。

 

楽天証券トウシルの動画でも紹介されていますので、参考まで。

 

 

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 ◆おわりに

本書では、ここまで紹介してきた内容の詳細はもちろんのこと、「海底テーブルを束ねる中心地:シンガポールの戦略」や、「日本国内における東大とTSMCがタッグを組んだ次世代の半導体開発」など、最初から最後まで見所満載の内容になっています。

2030年までの新たなデジタル戦略時代の要になる半導体について、とてもエキサイティングに楽しめる一冊になっています。

書店に並んでいる本でここまで懇切丁寧に紹介してくれている本をみたことがありません。

 

超・超・超、おすすめの一冊です。

 

 

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