書籍紹介『AIの時代と法』小塚荘一郎 (岩波新書)
G検定にはAIに関する法律問題も出るということで、読ませて頂いた書籍をご紹介します。
それではよろしくお願いします。
『AIの時代と法』小塚荘一郎 (岩波新書)
◆変革するAI社会が法を超える
本書の内容
AIをはじめとした技術変革が、法の枠では規制が難しい時代が訪れてきた。
従来のようにモノの取引だけでなく、無形のサービスの取引が拡大してきたのも大きな要因である。
なぜなら、形のないサービスの取引に関しては、誰にどのような権利が成立するのかが、不明確になりがちなのである。
例えば、データ収集は、法的な主体である「権利」「義務」ではとらえきれない。
本書では、法や契約でなく、技術的な(プログラム)”コード”によってルールが定められていくという状況を指摘している。
また、法による規律の周囲にあって、社会の仕組み自体を規律するガバナンスが重要になるとし、日本企業のコーポレートガバナンスの果たす役割が大きいと示唆している。
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個人的学んだことリスト
- 現行の道路交通では、自動車には「運転手」が乗車していることを前提に、運転手がハンドルやブレーキを操作することが必須とされている。自動運転のレベル4、レベル5を日本にて実現するためには、道路交通法を改正する必要がある。ただし、道路上の車両の走行に関するルールは国際条約が取り決めており、日本が締結しているジュネーブ道路交通条約「道路交通に関する条約」を改定させなければ、改定できないのである。
- (現行の)売買契約では、売主は、売買の目的物を買主に対して引き渡すことである。要するに、買主にとっては、自分のものになる。これに対して、電子コンテンツの配信サービスでは、配信者の基本的な義務は、著作物の利用を認めること(利用許諾)でしかない。利用に条件がつくかどうかは個別の契約で取り決められており、例えば、電子書籍販売会社がサービスを終了した場合は、読めなくなるなどの事態が発生してしまう。
- 自動運転車の廃車サービスの場合、自動運転車が目的地に行くまでの間に立ち往生してしまった場合、そこでサービスは終了になるか、それとも代替車両が配車されてくるのかは、契約内容を読んでみないとよくわからないことになっている。
- 情報は、特許や著作権によって保護されていない限り、排他的に誰かのものになることはない。物には形があるので、誰かが保有していれば他人は使用できないが、情報は、いったん公開されたら誰でも利用できてしまう。法律的には、情報に対して独占的な使用権は認められない。
- EUの一般データ保護規則(GDPR)・・・個人を対象として個人情報が収集されるという関係を逆転させ、個人を「データ主体」と位置づけた個人情報保護のルール。
- 情報銀行・・・データ管理を専門のサーバーに任せると同時に、どのような相手方に対してデータを提供するかについての基準をあらかじめ決めておく仕組みが考えられる。具体的な提供の要請に対しては、管理を任された専門業者が基準に従って判断し、本人の同意に代わる許諾を与える仕組みを「情報銀行」と呼ばれる。
- 著作権は、著作物について独占的な権利を認め、著作物を生み出すという創作活動の対価を確保させようとする制度であるとされ、権利の成立には「創作性」が必要になる。ところが、データベースを構成する個々のデータは、収集されたものであって、創作によって作り出されたものではない。データの配列についてオリジナリティがあれば創作性は認められるという考え方はあるが、著作権によって独占的な権利が認められる範囲は、オリジナリティのある配列部分に限られる。
- エレクトロニクス業界では、一つの製品に数千件の特許権が関係すると言われ、特許権には差止請求権が認められているので、どの一つの権利が行使されても、製品の製造が止まってしまう。とはいえ、すべての権利について個別にライセンスの合意を結ぼうとすると、本数だけで膨大になり現実的でない。そのため、権利者間で、保有するすべての特許権について包括的に許諾しあう(クロスライセンス)とか、特許権者がそれぞれの持つ特許権を提供してプールを作り、プールされた特許権については、包括的に許諾を与える(パテントプール)といった実務が発達してきた。製品のどの部分に、どの特許が効力を持っているかを正確に分析するのはほとんど不可能なほどに多数の特許権が重なり合っているといわれる。この状況を「特許の藪」と呼ぶ。
- 不正競争防止法は、「不正競争行為」にあたる行為が行われた場合に、それに対する差止請求と損害賠償請求ができるという制度である。差止請求という表現からは、「やめるように」という裁判所の命令が出されることだけを想像しがちであるが、不正競争行為に行われた物や設備などの廃棄処分を命令することも含まれる。問題となった不正競争行為がデータの盗用である場合、盗用された被害者は、そのデータをコピーした記憶を消去する命令を裁判所に求めてもよい。
- アシロマ原則・・・アメリカでは、経済活動に対する政府の介入に警戒心が強い。そのため、AIに関しても、国家戦略は作られているが、開発や利用に関するルールについて、政府が関与して作成する動きはない。しかし、「未来生活財団」という民間の財団を拠点として学界や産業界の開発者と利用者が集まり、自主的なルールが作られた。「アシロマ原則」と呼ばれている。
- 日本では、電子商取引の中で消費者の利益を守るため、経済産業省が2002年以来、『電子商取引に関する準則』を作り、改訂を重ねてきたが、2018年には、AIスピーカーなどに対応した改訂が行われ、題名も『電子商取引及び情報財取引等に関する準則』となった。その中では、AIスピーカーを用いた取引について、音声認識された注文内容を確認した上ではじめて発注を確定させるという仕様になっていなければ、有効な注文として成立しないという解釈が示されている。
- AIと差別・・・AIシステムの学習するデータは、現実の社会にバイアスが存在していると、それが学習内容に反映されてしまう。現実のデータ自体がバイアスを含んでいると、「教師データ」は中立的に作ったはずでも、機械学習を実行しているうちに、現実社会のバイアスを「学習」してしまう可能性がある。
- 物からデータへ移行する時代の新経済秩序は、知的財産権の問題にも対応しなければならない。EUは、2019年4月に、著作権法ディレクティヴ(指令)を制定した。EU各国は、著作権法を改正して取り入れなければならない。この内容で大きな注目を集めた点は、大規模なプラットフォームに対して、著作権を侵害するコンテンツを発見し、削除する仕組みを導入するように義務づけたこと。
- アメリカのCLOUD法・・・2018年に制定。「海外データ合法的使用明確化法」の英文頭文字をつなげた略称。アメリカの裁判所が、犯罪の証拠にもとづいて令状を発し、ユーザーのプライバシーにかかわるデータの提出を命令したときは、たとえそのデータが海外に所在するサーバー上に保存されていたとしても、事業者は、データの提出に応じなければならない。
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業務でAIに関わる方た、法に関わる方、G検定の学んでいる方など、気になる方は、ぜひ本書を読んでチェックしてみてくださいね。
おすすめの本です。
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